ある女性の死

  • 2020.07.13 Monday
  • 16:44

ずいぶんと昔、とあるフランス女とつきあっていた。私が渡仏してすぐに出会い、1年以上のおつきあいの末にすったもんだでお別れし、ひどく苦い思い出を抱えて私はその後の30数年間を悶々としていた。しばしば夢の中に出てくる彼女は、かつてと同じように私を苦しめ続けた。そのとき隣で寝ている人が誰であれ、それは変わらなかった。

 

インターネットが普及してから、たまに彼女の名前を検索して、どこで何をしているか見ていた。とある世界でそれなりに名をなしていたのだ。ある時期から何度見ても同じ場所で同じ仕事をしているのを見て、油断してしばらく放置していた。ところが一昨年の今頃、久しぶりに彼女の名前をフランスの地方新聞の電子版で見かけて愕然とした。
彼女は、自宅のぼやのために一酸化炭素中毒死していたのだ。それもその記事を見つけた時点から3年も前に。
3つ年上だった人はもう年を取らなくなり、私と同い年になっていた。
いつかフランスへ戻って、彼女と和解したいという私の願いは永遠に断たれた。彼女にとって私は、ただのくず野郎のままで終わってしまった。

 

フランス南西部の小さな町の一軒家に一人で住んでいた彼女。ある夏の早朝、隣の世話焼きおばさんがその家から煙が漏れているのを見て大騒ぎし、消防車を呼んだ。しかし時すでに遅く、住人は息絶えていた。
就寝中の一酸化炭素中毒死は苦しさを感じないという。私にとってはそれがたった一つの救いだった。

 

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